手や指のふるえ
手や指がふるえる病態を振戦(しんせん)といいます。
これは、自分で意識してふるえているのではなく、何かのきっかけで無意識に筋肉の収縮と弛緩を繰り返す状態をいいます。
細かいふるえであり、大きな揺れである痙攣(けいれん)とは異なります。
振戦の原因は?
振戦は、手足などの末梢の筋肉に起こることが多く、ときに頭や顔の筋肉に起こることもあります。
疲労やストレス、緊張によるものや、寒さや肩こり、喫煙などによる部分的な血流障害により起こることもあり、大部分の振戦は脳に異常をきたしたことが原因ではありません。
ただパーキンソン病(特徴的な振戦を示します)や薬が原因となる薬剤性パーキンソニズム、低血糖や甲状腺ホルモン、肝臓などの内臓疾患により起きるものもあるので、続いているふるえについてはしっかり検査をする必要があります。
また更年期障害や自律神経障害、アルコール依存症などによる振戦の治療は、婦人科や精神神経科などの他科の診察も必要になってきます。
これらの原因に当てはまらない原因がはっきりしないものを、本態性振戦(ほんたいせいしんせん)と呼びます。
振戦は40歳以上になると起きやすくなりますが、特に高齢者に起きやすい本態性振戦を老人性振戦ともいいます。
振戦のタイプ
振戦を認識した場合には、まずどのような状況下で症状が出現しやすいかをみます。
じっとしているときに起きやすいのか、物を持つことで起こるのか、何か動作をしたときに生じるのか、自分がどの場合に当てはまるのか認識しておくと診療はしやすくなります。
・安静時振戦:
じっとしているときに起きやすく、手のふるえであれば手に力が入らない状態のときに出る状態です。
パーキンソン病やパーキンソン症候群(パーキンソニズム)が代表例です。
これらの振戦は、通常の小刻みな動きとはやや異なり、指先が円を描くような(丸薬をまるめるような)動作を起こします。
・動作時振戦:
手足を動かしたときに生じる振戦。その中でも以下の2つがあります。
姿勢時振戦:
コップをもつ、鉛筆で字を書く、手を前ならえの位置に挙げるなどの一定の位置に保持した
ときに起きます。本態性振戦や甲状腺機能亢進症などがそれにあたります。
肝臓の障害が原因で羽ばたき振戦を起こす場合は、手を挙げて手首を背屈させるようにし
たときにふるえます。
また振戦とは異なりますが、両手を前ならえにしたときに指がピアノを弾くみたいに勝手
に動いてしまう状態をpiano playing fingerと呼び、不随意運動の一つです。
この場合、頭と首の境目の脊髄神経に腫瘍などができている可能性があります。
企図振戦(きとしんせん):
小脳性振戦ともいいますが、指先などが目的の場所に近づこうとするとふるえがひどくなり
ます。
机の上の物を取ろうしたときやエレベーターのボタンを押そうとしたときに、ふるえが強
くなります。
この場合は、小脳の梗塞や多発性硬化症などの病気になっている可能性があります。
またアルコール依存症による振戦もこの項目に当てはまります。
ふるえが気になったときに受診前に確認すること
ふるえが原因で受診される場合は、以下の項目を一度確認してみてください。
⑴前述したように、どのような場合にどの部分にふるえが生じるか
⑵どの時間帯に(午前中、仕事中、寝起きなど)生じるのか
⑶どのような環境で起きやすいのか(寒いとき、緊張するプレゼンの最中など)
⑷カフェインの摂取や飲酒・喫煙などの生活習慣との関連性はどうか
⑸ふるえの起きやすい薬剤を長期間内服しているのか。
この場合は、処方してもらっているかかりつけ医もしくは薬剤師さんに確認してみるとよいで
しょう。
⑹いつからふるえが出現するようになったのか。
そのころになった病気がないか、もしくは健康診断や人間ドックでの異常値の指摘はない
か。
手や頭がふるえるだけで、人前に出ることが怖くなったり、日常生活がつらくなったりしま
す。
原因がはっきりしないことが多い病態ですが、検査で危険な病気がかくれていないことを確
認したうえで、薬でよくなるかどうかをまずは試していきます。
また特殊な病態の振戦の場合には、内科的専門治療、外科的治療も念頭に病院を紹介するこ
とになります。
些細な症状でも、ご相談ください。