突然片目が見えなくなる?「一過性黒内障」とは何か ~見逃せない脳と血管のサイン~
こんにちは。亀戸脳神経・脊髄クリニック~あたま・くび・腰の院長の田宮です。
ある日突然、片目だけが一時的に見えなくなった経験、もしそんな恐ろしい経験をされた方がいらしたら、それはすぐに検査をしてください。数分で戻ったからといって安心して放置すると、命に関わる病気のサインかもしれません。
今回は「一過性黒内障(いっかせいこくないしょう)」という症状について、わかりやすくご説明します。
◆ 一過性黒内障とは?
一過性黒内障(Amaurosis fugax)とは、「一時的に片目が真っ暗になる症状」のことを指します。
突然、片目だけが数秒から数分間、暗くなって見えなくなる――まるでカーテンがさっと引かれたような感覚になるのが特徴です。
数分以内に自然に回復するため軽く考えがちですが、実は脳や血管の異常が原因であることが多く、放置すれば脳梗塞などに進行する危険性があります。
◆ どんな症状で起こる?
一過性黒内障の主な症状は以下の通りです:
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突然片方の目が暗くなる、真っ黒になる
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数秒から数分で自然に戻る
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視界全体が消えることもあれば、部分的に見えなくなることもある
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痛みは通常伴わない
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繰り返し起こることもある
このような症状がある場合、眼科的な問題だけでなく、脳や血管の異常を考える必要があります。
◆ 原因は何か?
一過性黒内障の原因にはさまざまありますが、特に注意すべきは以下のものです:
1. 頚動脈の動脈硬化(頚動脈狭窄)
脳へ血液を送る「頚動脈」に動脈硬化が起こると、血管内のプラーク(脂質のかたまり)が剥がれて目の動脈を一時的に詰まらせることがあります。
2. 心臓からの血栓
心房細動などの不整脈があると、心臓内に血の塊(血栓)ができ、それが目の動脈へ流れて詰まらせることがあります。
3. 高血圧、糖尿病、脂質異常症
これらの生活習慣病はすべて動脈硬化のリスク因子であり、一過性黒内障の原因となる血流障害を引き起こすことがあります。
◆ クリニックでの検査は?
一過性黒内障を疑った場合、当院では次のような検査を行います:
◎ 頭部MRI・MRA
脳の血管に狭窄や詰まりがないかを調べます。
◎ 頚動脈エコー
首の血管(頚動脈)にプラークや狭窄があるかどうかをリアルタイムで確認します。
◎ 心電図
不整脈による血栓形成が原因でないかを確認します。
不整脈がある場合は、循環器内科(同じフロアにあります)を紹介します。
◎ 血液検査
高コレステロール、高血糖、炎症マーカーなどを調べ、動脈硬化の程度を推定します。
◆ 治療はどうするの?
原因に応じて治療方針が決まりますが、以下のような対応が一般的です。
◎ 抗血小板薬の内服
バイアスピリンやクロピドグレルなど、血をサラサラにする薬を使って、再発や脳梗塞の予防を行います。
後述しますが、発症後最初の90日間はリスクが高いとされています。
◎ 生活習慣の改善
動脈硬化の進行を防ぐため、食事、運動、禁煙などの指導を行います。
◎ 必要に応じて専門紹介
重度の頚動脈狭窄が見られた場合は、血管内治療(ステント)や外科的治療(頚動脈内膜剥離術)が必要となるため、脳神経外科に紹介します。
◆ 放置するとどうなるの?
「一時的に治まったから大丈夫」と考えるのは大きな間違いです。
一過性黒内障は「一過性脳虚血発作(TIA)」の一種とされており、その後90日以内に15〜20%の人が脳梗塞を発症するという報告もあります(参考文献①)。
つまり、この症状は「脳梗塞の予告信号」なのです。
見逃さず、早めの受診と対策が極めて重要です。
◆ 薬以外に気をつけることは?
薬物治療以外に、生活習慣の改善が再発防止に重要です。
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禁煙:喫煙は動脈硬化を加速させる最悪のリスク因子です
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減塩とバランスの良い食事:野菜や魚中心、脂肪を控えめに
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定期的な有酸素運動:ウォーキングや水中歩行など週3〜5回
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十分な睡眠とストレス管理:自律神経の安定が血管保護に有効です
◆ 健康診断の大切さ
一過性黒内障の背景には、動脈硬化、糖尿病、脂質異常症などが隠れていることが多いため、年1回の健康診断でこれらをチェックすることが非常に重要です。
特に次のような方は注意が必要です:
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40歳以上
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喫煙歴がある
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家族に脳卒中や心臓病の方がいる
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健診で「コレステロールが高い」「血糖値が高い」と言われた
◆ まとめ
ポイント | 内容 |
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一過性黒内障とは | 一時的に片目が真っ暗になる症状 |
放置のリスク | 数ヶ月以内に脳梗塞になる可能性 |
原因 | 頚動脈の狭窄、心臓の血栓、生活習慣病など |
必要な検査 | MRI、頚動脈エコー、心電図、血液検査など |
治療法 | 抗血小板薬、生活習慣の改善、必要なら手術紹介 |
予防 | 禁煙、減塩、運動、定期健康診断が重要 |
◆ 参考文献(PubMedより)
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Johnston SC, et al. “Short-term prognosis after emergency department diagnosis of TIA.” JAMA. 2000 Dec 13;284(22):2901-6. PMID: 11147988
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Biousse V, et al. “Amaurosis fugax: a review of 99 cases.” Stroke. 1997;28(5):993-9. PMID: 9158617
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Amarenco P, et al. “Atherosclerotic disease of the aortic arch and the risk of ischemic stroke.” N Engl J Med. 1994;331(22):1474-9. PMID: 7969272
少しでも「片目だけ一瞬見えなくなった」経験のある方は、ぜひ一度、当院にご相談ください。早期発見・早期治療があなたの将来を守ります。