脳の健康を守るために知っておきたい「高血圧」対策
こんにちは、亀戸脳神経・脊髄クリニック~あたま・くび・腰~の院長の田宮です。今回は、健康診断で「血圧が高い」と言われてショックを受けたあなたに、「高血圧が脳に与える影響」について、わかりやすく解説したいと思います。
1. 高血圧は「静かな脅威」です
健康診断で「血圧が高めですね」と言われたことはありませんか?
実はこの「高血圧」、放っておくと脳卒中(脳出血や脳梗塞)や認知症などの重大な病気を引き起こすリスクがあります。
しかも高血圧そのものには自覚症状がほとんどないため、「まだ大丈夫」と思っているうちに進行してしまうことがあるのです。
私たち脳神経外科医は、高血圧が引き起こす「脳のダメージ」に日々向き合っています。
高血圧は加齢とともに増えていく傾向があり、60代の約6割、70代では7割以上の方が高血圧とされています。
つまり、私も含めて誰にとっても「他人事ではない」問題です。
2. どのくらいの血圧で注意が必要?
健康診断では「最高血圧(収縮期血圧)」と「最低血圧(拡張期血圧)」の2つが測定されます。
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正常値:120/80 mmHg 未満
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高血圧の基準:140/90 mmHg 以上
(参考:日本高血圧学会ガイドライン)
血圧が130〜139/85〜89 mmHg程度の方は、「正常高値血圧」と呼ばれ、今後の生活習慣改善が非常に大切です。
つまり、130を超えたら要注意!140を超えたら治療が必要になる可能性が高いと考えてください。
3. どんな病気につながるのか?
高血圧が続くと、血管の壁が厚くなり、傷つきやすくなります。その結果として…
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脳出血(血管が破れる)
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脳梗塞(血管が詰まる)
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脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血
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認知症(血管性認知症)
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心不全・腎不全・大動脈解離
…といった、命にかかわる病気が起こりやすくなります。
特に脳の血管は細くて繊細なため、高血圧による影響を受けやすいのです。
実際、脳出血の患者さんのうち、約80%以上に高血圧の既往があるという報告もあります。
また、血圧が高い状態が長く続くと、「脳の白質病変(白質病変=small vessel disease)」という状態を引き起こし、将来的な認知機能の低下とも深く関係しています。
4. 高血圧にならないために生活で気をつけること
もし血圧が少し高めと言われたら、まずは生活習慣の見直しから始めましょう。以下の項目がとても大切です。
食事
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塩分を控える(1日6g未満が目標)
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野菜や果物を多くとる(カリウムが血圧を下げます)
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油ものや加工食品(ラーメン・カップ麺・ウィンナーなど)を控える
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外食では「スープは残す」「味付けの薄いものを選ぶ」などの工夫も効果的です
運動
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1日30分、週5日のウォーキングなどの軽い運動
→血圧を下げ、脳や心臓の血流もよくなります。 -
階段を使う、テレビを見ながら体操するなど、日常の動きにも運動を取り入れましょう。
体重管理
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BMIが25を超えると高血圧になりやすくなります
→まずは3kg減を目標にしましょう。 -
ウエスト周囲径(腹囲)も指標の一つ:男性85cm以上・女性90cm以上は内臓脂肪型肥満のリスクあり
禁煙と節酒
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タバコは血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。
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アルコールは適量を守る(日本酒なら1合、ビールなら500mlまで)
5. それでも血圧が下がらないときは?
生活習慣を見直しても血圧が高いままの場合は、お薬による治療が必要です。
高血圧治療は「薬を飲む=負け」ではありません。
薬を飲むことで、将来の脳梗塞や認知症のリスクを大幅に減らすことができます。
当院での高血圧の診療の流れ
① 初診時にくわしく問診・測定
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普段の生活習慣やご家族の病歴などを伺います。
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血圧は診察室だけでなく、自宅での朝晩の測定もお願いしています(家庭血圧)。
② 必要な検査
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頭部MRI/MRA検査:脳血管の状態をチェック
→くも膜下出血・脳梗塞のリスク評価 -
血液検査:腎機能、脂質、糖尿病の有無などを確認
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頸動脈エコー:動脈硬化の程度を評価
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必要に応じて、心電図や胸部レントゲンも追加します
③ 生活習慣の改善指導
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具体的な塩分制限・運動指導について、わかりやすいパンフレットもご用意しています。
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希望があれば管理栄養士との面談も可能です。
④ 血圧の薬の処方(必要な場合)
薬は「一生飲むことになる」と不安を感じる方もいますが、血圧が安定し、生活習慣が改善すれば、減薬や中止も十分に可能です。
薬の種類としては以下のような選択肢があります。
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ARB/ACE阻害薬(血管を広げる、腎臓保護もある)
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Ca拮抗薬(血管を柔らかくする、年齢が高めの方に多く使用)
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利尿薬(余分な塩分・水分を排出)
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β遮断薬(心臓の働きを穏やかにする)
患者さんの状態に応じて、1種類または2~3種類の薬を組み合わせて処方します。
6. 血圧の「理想」はどのくらい?
家庭で測る血圧(家庭血圧)の目標:
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朝・晩ともに135/85 mmHg未満
医療機関で測定する診察室血圧:
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140/90 mmHg未満
これらを目指すことで、脳血管を守り、将来の病気を防ぐことができます。
7. 最後に:脳を守るには、今日からの行動が大切です
高血圧は、「年齢のせい」と片付けられがちですが、放っておくと脳の病気の引き金になります。
特に、脳出血や脳梗塞で倒れてしまうと、その後の生活が大きく制限されてしまう可能性があります。
「少し高いだけ」と思わず、早めに対策を始めることが、将来の自分を守る第一歩です。
高血圧と診断された方はもちろん、「高めですね」と言われたことがある方も、ぜひご相談ください。
【参考文献・出典】
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Whelton PK, Carey RM, Aronow WS, et al. 2017 ACC/AHA Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults. J Am Coll Cardiol. 2018;71(19):e127-e248. [PubMed: 29146535]
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Kario K, et al. Management of hypertension in patients with cerebrovascular disease: a scientific statement from the Japanese Society of Hypertension. Hypertens Res. 2021;44(6):735-757. [PubMed: 33963338]
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日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン 2019(JSH2019)